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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)3155号 判決

原告 沼田栄吉

被告 松本永二 外一名

一、主  文

被告松本永二は、原告に対し別紙目録<省略>記載の株券及び株式申込証拠金領收証を引き渡せ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告松本永二の平等負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告等は、各自、原告に対し、別紙目録記載の株券及び株式申込証拠金領收証を引き渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「原告は、別紙目録記載の株式の株主であるが、昭和二十四年十月二日訴外旭化工機株式会社の依頼により、同会社に対し翌日返還を受くべきことを定めて、別紙目録記載の株券及び株式申込証拠金領收証(拂込期日を以て株金拂込領收証に振り替えられる。以下領收証と略称する。)を名義書換のための名義人(領收証については名宛人、以下名義人と仮称する。)の白紙委任状を添付して貸し渡したところ、被告松本永二は同日原告に対し、右訴外会社のため、右株券及び領收証の返還につき連帶保証をした。そこで原告は、被告松本に対し保証債務の履行として右株券及び領收証の返還を求めるとともに、権原なくして現に右株券及び領收証を占有している被告高松商事株式会社(以下被告会社と略称する。)に対し、株主としてその引渡を求めるため、本訴に及ぶ。」

と陳述し、被告会社の抗弁に対し、

「被告会社がその主張の日右訴外会社に対する貸金の担保として、同会社から右株式に質権の設定を受け、名義の白紙委任状付右株券及び領收証の引渡を受けたことは認めるが、原告が右訴外会社に対して右株券及び領收証を貸し渡したのは、後日に至り右訴外会社の詐欺にもとずくことが判明したので、原告は、株式の流通を阻止して自己の権利を保全するため、昭和二十五年二月二日右株式の発行会社に対し、原告名義の株式について改印届をしたのであつて、被告会社が右白紙委任状付株券及び領收証の引渡を受けたのは、その後の同月十五日であるから、その引渡を受けるにあたり、株式発行会社について右委任状の印影と改印届の印影とを照合して調査をすれば、右株式が事故株式であることが判明したのに、その調査をしないで右の引渡を受けたものである。從つて、被告会社の右白紙委任状付株券及び領收証の取得は、商法第二百二十九條第二項の規定の趣旨にかんがみ、過失あるものであるから、被告会社は、右株式について適法に質権を取得したものということはできない。」

と述べた。<立証省略>

被告松本及び被告会社訴訟代理人は、いずれも「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、被告松本は、「原告の被告松本に対する請求原因事実は全部これを認める。」と述べ、

被告会社訴訟代理人は、「被告会社が原告主張の株券及び領收証を占有していることは認めるが、原告がその主張の株主であることは知らない。」

と述べ、抗弁として、「被告会社は、昭和二十五年二月十五日訴外旭化工機株式会社から同会社に対する貸金の担保として原告主張の株式に質権の設定を受け、右株券及び領收証を名義書換のための名義人の白紙委任状とともに善意無過失にその引渡を受けたものであるから、被告会社は、右株式について適法に質権を取得したものであり、この質権にもとずき右株券及び領收証を占有しているものである。」と述べ、なお、「原告が右株券及び領收証を詐取せられたものであることは知らないが、原告がその主張の日株式発行会社に対し改印届をしたこと、被告会社が右白紙委任状付株券及び領收証の引渡を受けるにあたり、株式発行会社について右委任状の印影と会社に届出の印鑑の印影とを照合して調査をしなかつたことは認める。しかしその調査をしなかつたことは何等被告会社に過失があつたことにはならない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告の被告松本に対する請求原因事実は、全部同被告の認めるところであり、右事実によれば、原告の同被告に対する請求は理由があるから、これを認容すべきである。

被告会社に対する請求を考えるに、被告会社が原告主張の株券及び領收証を占有していることは被告の認めるところであるが、被告会社が昭和二十五年二月十五日訴外旭化工機株式会社から同会社に対する貸金の担保として、原告主張の株式に質権の設定を受け、右株券及び領收証を名義書換のための名義人の白紙委任状とともに、その引渡を受けたことは原告の認めるところであるから、被告会社は、反証のない限り、善意無過失にその引渡を受けたものと認めるべきである。ところで、原告が被告会社において右株券等を取得するに先だち、同月二日右株式発行会社に対し、原告名義の株式について改印届をしたこと及び被告会社が右株券等の引渡を受けるにあたり、右株式発行会社について、右委任状の印影と改印届の印影とを照合して調査をしなかつたことは、当事者間に爭のないところであるが、被告会社が引渡を受けた右委任状が眞正に作成せられたものであることは原告の認めるところであり、原告が右委任状を前記訴外会社に任意交付したものであることは、原告の本件における主張自体から明らかである以上、後日に至り委任状の発行者である原告によつてなされた改印届につき、取引の第三者である被告会社が調査をしないことをもつて、過失ありとして株式の善意取得を阻止することを認めることは、あたかも、自由に白紙委任状の撤回を容認すると同一の結果をきたし、白紙委任状付株式の流通を阻害すること甚しく、到底容認し難いところである。株券の裏書による株式の善意取得の制限についての商法第二百二十九條第二項の規定は、株主名簿に記載のある株主のなした裏面(白地裏書の場合には署名捺印又は單に捺印)が真正でない場合に関するものであつて、こゝに引用して株式名義人によつて真正に作成せられた白紙委任状付株券又は領收証についての準拠とする訳にいかない。從つて、本件において被告会社が原告主張の調査をしなかつたことは、株式の取得につき過失のあつたことの理由とならないのである。

また原告が右株券及び領收証を詐取せられたものとしても、そのことは被告会社の右株式の善意取得を妨げるものではない。

そうすると、被告会社は、右株式について適法に質権を取得したものというべきであり、從つて、被告会社の右株券及び領收証の占有は正権原にもとずくものであるから、その引渡を求める原告の請求は失当としてこれを棄却すべきである。

そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條本文を、仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 中田秀慧 川上泉)

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